まだ書きかけ。ですがどうぞ。感想もお待ちしております!
夢の底で待っている時間
プロローグ
【母】
12月の夜は、どこか人の感情を濃くする。
洗ったまま干し忘れた湯呑みをキッチンで見つけたとき、なぜか、もう戻らない時間を想った。
息子が生まれた日。
柔らかくて、何も知らない小さな命を、私はこの腕に抱いた。
そのときの匂いは、今でも記憶の奥に残っている。
少し濡れた羊のような、でも温かくて、安心する匂い。
それから20年。
私は自分をどこかに置き去りにしてきた。
たぶん、それが母親というものだと信じていた。
「一緒に過ごすの、これが最後のクリスマスかもね」
息子がそう言った夜、私は思わず笑ってしまった。
でもその笑いは、自分の中の誰かが震えながら出した音だった。
そう、私はずっと、何かを待っていたのかもしれない。
理由もなく、期待もせずに、ただ黙って。
【息子】
夜の部屋にいると、家具の輪郭がゆっくりと滲んでいく。
それはたぶん、現実が夢に溶けていく前触れなのだ。
僕は母のために生きてきたわけではない。
でも、母の存在が僕の輪郭を形作っていたのも確かだった。
彼女の笑い声、炊き立てのご飯の匂い、冬の朝のひんやりとしたキッチン。
それらは僕の内部に静かに沈殿していて、たぶん一生そこから動かない。
「誰かに愛されるべきだと思うよ」
そう言ったとき、母は微笑んだけれど、あれは笑いではなかった。
たぶん、それは祈りに近い何かだった。
音のない祈り。
今年のクリスマス、僕は出ていく。
でもその前に、母の誰かではない誰かと過ごす姿を、ほんの一瞬でも見てみたかった。
【男】
僕は夜が好きだ。
夜は人を等しく孤独にする。
それがたまらなく好きだった。
孤独は清潔で、予測ができて、誰にも傷つけられることがない。
でもその中で、人は確実に少しずつ壊れていく。
40歳になって、僕はようやくそれに気づいた。
遅すぎるかもしれないけれど、遅すぎるということ自体が人間の特権だと、どこかで読んだことがある。
たぶん村上春樹の本だったかもしれない。あるいは、僕の記憶が創作した文章かもしれない。
彼女の姿を見たのは、一度だけだった。
でも、その横顔は、夜の静けさの中で何度も現れた。
名前も知らない。声も知らない。
だけど、彼女が冬の終わりに似ていることだけは確かだった。
【夢】
その夜、三人は同じ夢を見た。
世界は静かだった。空は深い青に染まり、時間は停止していた。
木々は風に揺れず、時計の針はどこにもなかった。
その中央に、神のようなものがいた。
それは老人でも、子供でも、鳥でもなかった。
ただ、そこに“存在していた”。
声を持たず、言葉を持たず、ただ一つの意志を伝えた。
「お前たちに、時間を巻き戻す権利を与えよう。
どの瞬間に戻りたいか、選ぶがよい」
【母の夢】
私は時間を遡り、息子が初めて「ママ」と言った瞬間に戻った。
あの声は、小さくて、世界の中心だった。
あの瞬間だけでいい。
もしもう一度そこに立てるなら、すべての孤独も、すべての涙も引き受けられる。
【息子の夢】
僕はまだ小さくて、眠る前に母が絵本を読んでくれていた夜。
彼女の声は柔らかくて、匂いは洗いたてのタオルみたいだった。
そのとき僕は、世界は安全な場所だと信じていた。
もう一度そこに戻れたなら、何かをやり直せる気がした。
【男の夢】
僕はまだ学生で、駅のホームであの人を見送った日。
彼女は何も言わず、ただ手を振った。
そのとき僕が一歩だけ、ただ一歩だけ進んで「行かないで」と言えていたら。
もし今、その瞬間に戻れるなら、もう一度その一歩を選び直したい。
【目覚め】
三人は目を覚ました。
夢の内容は覚えていない。
ただ、目覚めた瞬間、心のどこかに何かが残っていた。
それは霧のような後悔だったかもしれないし、ほんのわずかな希望だったかもしれない。
冬の朝の空気は澄んでいて、息を吐くと白くなった。
三人の人生は、再び静かに、現実という名前の川に流れ始めた。
しかし、何かが、ほんのわずかに変わっていた。
朝起きると、母がいつもより少しだけ明るく見えた。
キッチンの光が差し込む角度が違ったのか、それとも僕の見方が変わったのかはわからない。
夢の内容はほとんど覚えていない。ただ、誰かが何かを言っていた。
それが母だったのか、昔の自分だったのか、それすら不確かだった。
トーストの香り。
カップの中に注がれたコーヒーの湯気。
その朝、母は「今日はいい天気だね」と言った。
僕は「うん」とだけ答えた。たぶん、それ以上の言葉が見つからなかったんだと思う。
最近、大学で同じ年の彼女と将来の話をするようになった。
彼女は小柄で、よく笑う。猫を飼いたいと言っている。
僕たちは春から半同棲を始めようと話している。
僕が家を出る理由の半分は、彼女の存在だ。
でも、母にはまだ彼女を紹介していない。
隠しているわけじゃない。
ただ、タイミングを逃したまま、季節がいくつか通り過ぎていった。
たぶん、怖かったんだと思う。
何が怖いのかはうまく説明できない。
母の顔を見て、彼女のことを話そうとしたとき、喉の奥に小さな棘のようなものが刺さる。
それが何かを問いただしてくる。「本当に、それでいいの?」と。
今年のクリスマスは彼女と2人で過ごす予定だった。
特別なプランはないけれど、一緒にスーパーで買い物して、ささやかなご飯を作って、テレビを見て笑う。
それだけで充分だった。
けれど今朝、母が言った。
「ねえ、24日、夕方まででいいんだけど、ちょっと買い物つきあってくれない?一人だと持ちきれないの」
僕は「いいよ」とすぐに返事をした。
断る理由はなかった。
むしろ、母と買い物に行くこと自体は嫌じゃなかった。
でも、少し怖かった。
理由はわからない。
ただ、その日が近づくにつれて、僕の中で何かがわずかに軋んでいた。
それは母に対する罪悪感かもしれないし、あるいは、母が何かを察しているんじゃないかという不安かもしれない。
母は、なにかを知っているような目をするときがある。
言葉にしないで、ただ、静かにじっと見つめてくる。
その目が怖い。
責めるようでも、許すようでもなく、ただ深くて静かだ。
僕は、その目と向き合う準備がまだできていない気がしていた。
クリスマスまで、あと少し。
その数時間が、僕にとってどんな時間になるのか、
まだわからなかった。
でも、どこかで、すでにその時間の中に自分が飲み込まれている気もしていた。
小学校の門の前で泣いていた、あの子の姿を、私は今でもはっきり覚えている。
入学して間もないころ、仕事が長引いて迎えに遅れてしまった日。夕暮れの校庭の端で、ランドセルを背負ったまま、あの子は泣いていた。手足をぎゅっと縮めて、小さな体で寒さと不安に震えていた。
ごめんね、ごめんねと何度も謝りながら抱きしめた。あのときのあの子の温もりは、私の胸に深く残っている。
あれから十年以上が経った。今や私よりも背が高くなり、声も低くなったあの子。滅多に泣かないし、何を考えているのか、わかりづらくなった。
だから、今日何の前触れもなく、私は口にしていた。
「ねえ、クリスマスイブ、一緒に買い物行かない?」
言ってから、自分でも驚いた。特別に買いたいものがあるわけじゃない。冷蔵庫もそこそこに埋まっているし、クリスマスケーキだって、どうせ二人で食べきれるサイズなら前日に近所で買えばいい。
でも、私はあの子の時間が、どんどん自分の手の届かない場所に流れていってしまう気がして??どうしようもなく、声をかけたかった。
あの子にはあの子の世界がある。私の知らない時間、私の知らない友人たち。きっとその世界の中に、私はもうあまり必要とされていない。
けれど私は、いまだに、母親としての自分しか持っていない。夫と別れ、仕事と子育てに追われ、気づけば人生の中心にはいつもあの子がいた。あの子がすべてだった。
「いいよ」と、あの子は言ってくれた。少し驚いたような顔で、でも優しい声で。
その一言が、なんだかとても嬉しかった。嬉しくて、少しだけ、泣きそうになった。
母の迎えが遅れた、小学校の夕暮れのことを、実は今でも覚えている。
あの日、寒かった。校門の前で一人きりで立っていた。ほかの子たちは次々に親に迎えられて帰っていったのに、母は来なかった。仕事で遅れているのはわかっていたつもりだったけど、寂しさと悔しさが胸に溜まって、目の前がにじんだ。
やっと母が駆けてきて、「ごめんね」と繰り返した。そのときの母の顔が、なぜかずっと心に残っている。もしかしたらあのときから、自分の「寂しさ」を見せることで、母の気持ちをつなぎとめられることを知ってしまったのかもしれない。
母と二人だけの生活だった。父はいない。家に帰れば、母の気配と気遣いが、いつも自分にまとわりついていた。ありがたかった。助けられたことも、たくさんあった。でも、その分、いつも「誰かのために」生きている気がしていた。
高校のころ、付き合っていた彼女がいた。気取らず、まっすぐで、一緒にいて安心できる子だった。あの子と過ごす時間が、自分の呼吸を取り戻してくれるようで、本当に心地よかった。
でも、別れた。
理由は母だった。
ある晩、母が静かに言った。「最近、うちのごはん、あまり食べないね。帰りも遅いし……ちょっと寂しい」
その言葉を聞いて、体がすっと冷えた。母は、自分が何を感じているのかをわかって言ったのか、ただ口に出しただけなのか。それはわからない。でも、そのとき、自分がこのまま誰かと一緒にいることが、母を傷つけることになると確かに感じた。
彼女には「今はちょっと忙しくて、余裕がない」とだけ伝えた。本当のことは言えなかった。彼女は泣いたけれど、黙ってうなずいた。
母のために、大切な人を手放した。そのことを、今でもときどき思い出しては、自分を責めてしまう。
もちろん、母のことを嫌っているわけじゃない。感謝もしている。ひとりで育ててくれたことも、守ろうとしてくれたことも、全部ちゃんと伝わっている。でも、それでも、自分の人生を少しずつ奪われていったような気がして、心のどこかで母を憎んでいる自分がいる。
今日、母が突然言った。
「クリスマスイブ、一緒に買い物行かない?」
一瞬、戸惑った。なんの買い物かもわからない。でも、自分の口は勝手に動いていた。
「いいよ」
そう答えることで、母が安心するのを知っているから。もうそれが、癖になってしまっている。
本当は、今でも時々思う。もしあのとき、母の気持ちに背を向けていたら、今の自分は少し違っていたのだろうかと。
12月10日だった。特別な日じゃない。ただの冬の平日だ。週の真ん中、水曜日。朝から会議があって、午後はクライアントと話して、それが終わるころには日はとっくに落ちていた。
仕事はまあ、順調と言えば順調だ。でもそれは、何かを達成しているというよりも、ただ日々をこなしているだけの話だ。カレンダーをめくる手が、何の抵抗もなく滑っていく。そんな感じの毎日。
帰りにいつもの商店街を通った。冬のアーケードの明かりは、どこか頼りなくて、風が吹くと少し揺れる。そこで一人の女性を見かけた。正確に言えば、女性と、その隣にいた若い男の子だ。大学生くらいに見えた。つまり、おそらく息子だろう。
彼女は笑っていた。何か特別に面白い話をしていたわけではなさそうだったけれど、その笑い方が妙に印象に残った。やわらかくて、少し間が抜けていて、それでいてどこか懐かしい。言い方が悪いけれど、どこにでもいるような中年の女性だった。僕の好みとはまったく違う。
それでも、どうしてだろう。目が離せなかった。
たぶん、五秒か十秒くらいの出来事だった。でも、頭の中ではもっと長い時間だった気がする。彼女の顔つき、髪の色、コートの質感、横に立っていた息子の無言の距離感、そういったものが一つの映像として焼きついてしまった。
彼女が既婚者かどうかなんて、考えるまでもない。あの歳で、あの距離感で息子と買い物をしているなら、まずそうだろう。なのに僕は、そのことに少しだけがっかりした自分を感じていた。
家に帰って、靴を脱ぎ、キッチンの椅子に腰を下ろす。冷蔵庫のビールを一本取り出し、ラベルを眺めながら栓を開ける。それからふと思い出して、古いレコードを棚の奥から引っ張り出した。
そのレコードは、昔付き合っていた彼女がくれたものだった。僕より音楽に詳しい人で、レコードには妙にこだわっていた。プレーヤーを買ったのも、彼女の影響だ。別れてから、何枚かは手放した。でも、この一枚だけは捨てられなかった。
針を落とすと、少しだけノイズが走って、それから音楽が流れ始める。柔らかいピアノと、深いベースの音。それが部屋の空気を少しずつ満たしていく。
レコードジャケットに顔を近づけると、彼女の匂いがまだ残っている気がした。もちろん、そんなはずはない。もう何年も前のことだ。でも、その甘い香りは、あの頃の彼女の部屋の空気を思い出させた。夜のカーテン、床に置かれたコーヒーカップ、彼女の読んでいた本、うっかり垂らした香水のあと。
なぜだろう。今日は誰かの記憶に引きずられるような一日だった。
たぶん、何かが変わりつつあるのかもしれない。あるいは、ただの気の迷いかもしれない。僕にはわからない。ただ、彼女の笑い声が、今でも耳の奥に残っている。
【母の夢】2025年12月10日 夜
私は夢の中で黒猫を抱いていた。
それは、細くてしなやかで、ほとんど音も立てずに動く猫だった。
雪こそ降っていなかったけれど、冬の光は白く、空気は乾いていた。
私は、大正の女だった。
夫に捨てられ、実家に戻っていた。
親の猛反対を押し切って結婚した夫は職人だった。
家具を作る人。手先が器用で、無口で、いつも何かを削っていた。
家ではあまり喋らなかった。どこか気まぐれで、掴みどころがなかった。
私は彼のそういうところに惹かれたのだと思う。
けれど結婚生活は、思っていたよりもずっと静かで、そして寒かった。
ある日、彼は何も言わずに出ていった。
工具箱ひとつだけ持って、背中だけを残して消えていった。
私はそれ以上、何も言わなかった。
何を言えばよかったのか、分からなかったのかもしれない。
実家には、母がいた。
大きな家の主のようにして、変わらずそこにいた。
彼女は、私が帰ってきても驚かなかった。
ただ一言、「あの人は、そういう人でしょう」とだけ言った。
私は彼女の言葉に何も返せなかった。
でもその一言が、私のどこかを深く傷つけたのだと思う。
私は小さなころから、母に何かを伝えることが苦手だった。
そして今も、変わらなかった。
母は、家の中の空気を動かさない人だった。
いつも静かに茶を淹れ、障子を閉め、器を整えていた。
そして何かを諦めたような目で、私を見ることがあった。
その家にはもう一人、居候の学生がいた。
若くて痩せていて、言葉少なで、机に向かって詩ばかり書いていた。
朝になると、彼は台所で湯を沸かし、紅茶を淹れ、私のところに運んでくれた。
私は、彼と恋に落ちた。
恋と呼べるものだったかどうか、今でもよくわからない。
けれど彼といると、私の中に張りついていた氷のような時間が、すこしだけ溶けた。
それは母にも夫にもなかった感触だった。
彼と交わした会話は多くなかった。
でも、彼が私に言ったひとことだけを覚えている。
「猫は、寂しさを吸い取ってくれる気がします」
私はそのとき、何も言わなかった。
ただ、黒猫の毛を撫でていた。
ある日、私は縁側でふと気づいた。
私は、夫がいなくなったあの日から、
自分が“絶対に離れない存在”を探し続けていたのだと。
そして、気がつけば私は、
それを息子に向けていたのだと。
彼が今の息子の顔で、家を出て行った背中が、夢の中で重なった。
私は、黒猫を胸に抱えたまま、
庭の寒椿を見つめていた。
椿は何も語らなかった。ただ、そこに咲いていただけだった。
目が覚めたとき、私は深く息を吸い込んだ。
暖房の効いた部屋の空気は、少し重かった。
夢の内容はうまく言葉にできなかった。
けれど、母の言った「そういう人でしょう」という声だけが、やけに鮮明に残っていた。
それは、私がずっと飲み込めずにいたものだったのかもしれない。
【息子の夢】2025年12月10日 夜
夢の中で、僕は木槌を手にしていた。
掌には小さな傷がいくつもあって、爪の間には木くずが詰まっていた。
僕は職人だった。
ものを作っていた。
棚とか、椅子とか、小さな引き出しのある机とか。
何を作っていたのか、ひとつひとつは曖昧だけれど、
作ることそのものが、生きる理由だったように思う。
家には、誰かがいた。
彼女は僕の妻だった。
黙って朝食を出して、黙って後片づけをしていた。
ときどき、彼女が何かを言いかけて、結局黙り込む場面があった。
僕はそれが怖かった。
なぜかはわからなかったけれど、その沈黙の奥に、
自分を溶かしてしまうようななにかが潜んでいる気がしていた。
だから、僕は家を出た。
道具箱ひとつ持って、裏口から静かに。
振り返らなかった。雪が降っていたような気がする。
それからは、場所を転々とした。
誰の名前も覚えていないけれど、何度も「ここが最後だ」と思っては、
また移動していた。
ある日、古い邸宅を訪れた。
そこで作業を頼まれていたのか、たまたま通りかかっただけなのかは不明だった。
でもその庭に、彼女がいた。
縁側に座って、黒猫を抱いていた。
彼女の横には、若い学生のような男がいた。
彼は静かにノートに何かを書いていた。
彼女は微笑んでいた。
僕はそこに立ち尽くしたまま、何も言えなかった。
なにかを取り戻したい気持ちはあった。
でも、もうそれがどこにも見つからなかった。
夢の中の僕は、ただそこに「間に合わなかった」人間として存在していた。
朝、目が覚めたとき、
指先に木の粉のような感触が残っている気がした。
過去に誰かを傷つけたという確信も、
傷つけたのが自分だという証拠もなかったけれど、
胸の奥に、確かに何かが欠けていた。
それが何か、いまだに思い出せなかった。
【男の夢】2025年12月10日 夜
夢の中で、僕は誰かの家に住んでいた。
広い屋敷だった。廊下が長く、畳の香りが微かに残っていた。
縁側のガラスには冬の陽が淡く差し込んでいた。
僕は学生だった。
本ばかり読んでいて、詩ばかり書いていた。
理由はない。そうしていると、少しだけ自分が整う気がした。
家の主は不在で、その娘が暮らしていた。
夫に捨てられて戻ってきたらしい。
彼女は母と一緒に暮らしていた。
母は無口で、整った所作の人だった。
彼女は毎日、黒猫を抱いて縁側にいた。
時間の粒子が彼女のまわりだけ違っているように思えた。
僕は、彼女に恋をした。
ただの憧れかもしれなかった。
でも、彼女の「沈黙を愛しているような沈黙」に、僕は惹かれていた。
彼女に紅茶を淹れたことがあった。
それが僕にできる、唯一のやり方だった。
彼女はありがとうとも言わず、ただ一口、口をつけた。
けれど、それで十分だった。
ある日、庭に一人の男が現れた。
彼は職人だった。寡黙で、風のような人だった。
彼が誰なのか、僕はすぐに理解した。
彼女の過去であり、彼女の痛みであり、そして、彼女が手放したものだった。
彼女はその男を見た。
でも、追いかけなかった。
黒猫の耳がぴくりと動いた。
それだけだった。
僕はただ、彼女のそばにいた。
それが恋だったのか、宿命だったのかは、わからなかった。
ただ、そこにいた。
朝、目が覚めたとき、
なぜか掌に陶器のカップの重みが残っていた。
紅茶の香りもかすかに鼻の奥に漂っていた。
それが夢だったのか、過去だったのか、今でも判然としない。
【2025年12月12日 夜 母】
息子と口論になったのは、ほんの些細なことがきっかけだった。
でも、いつもそうだ。
本当に言いたいことは喉の奥に引っかかったまま、
出てきたのは、それとはまるで別の、冷たく硬い言葉だった。
ドアが閉まったあと、私はコートを羽織って外に出た。
鍵も財布も持たなかった。行き先はなかった。
ただ、歩くことで何かを押し流せる気がした。
商店街は夜の光に照らされて、妙に現実味を失っていた。
惣菜屋の揚げ物の匂い、古びた雑貨屋のガラス、遠くで鳴るFMラジオ。
世界がぼんやりと輪郭を失いはじめていた。
裏道に入ったとき、小さな物音がした。
耳を澄ますと、それは子猫の鳴き声だった。
目を凝らすと、空き地の隅に、黒い小さな影がいくつも動いていた。
全部で五匹。母猫と四匹の子猫。全員が、驚くほど漆黒だった。
母猫がこちらを見た。
その目には恐れがなかった。
むしろ、何かを見極めるような静かな眼差しだった。
彼女は、するすると暗がりの奥へと姿を消した。
そのあとを三匹の子猫がついていった。
一匹だけが残った。
小さな黒猫。
彼女は動かず、ただじっと私を見ていた。
私はそのまま膝を折り、小さくしゃがみこんだ。
猫は一歩も動かず、やがて、こちらへすっと歩いてきた。
まるで、ずっと前からそう決まっていたように。
腕に抱き上げると、彼女はそのまま私の胸に体をあずけた。
骨の細い、まだ柔らかい体だった。
だけど、妙に重かった。
何かを託された気がした。
誰かが、遠くから私にこの子を送ってきた。
そんな気がした。
「この子を、お願いします」
そんな声が、心の奥で鳴った気がした。
そのときだった。
後ろから足音がした。
私は振り向いた。
街灯の下に、男が立っていた。
彼は、私を見ていた。
驚いたような顔でもなく、無関心でもなかった。
ただ、何かを探していて、それを見つけた人間の目だった。
一瞬、時間が止まった。
言葉ではないものが、空気を伝って流れた。
知ってる、と私は思った。
この人の声、この人の手、この人の目の奥。
夢のなかで見た縁側の午後と、紅茶の湯気の重なり。
でも、そんなこと言えるはずもなかった。
男は近づいてきて、私の腕の中の子猫を見た。
それから、私の目を見て、言った。
「……その子、ずっとそこに?」
私は、うなずいた。
言葉を出すと、なにかが壊れてしまいそうだった。
「一匹だけ、逃げなかったの。というより……
私のところに来たような気がするの」
彼は黙って頷いた。
風が吹いた。
ふたりの間にだけ、やけに静かな風だった。
それだけだった。
名前も聞かなかったし、住所も聞かれなかった。
でも、私はなぜか、
今年のクリスマスは、ひとりじゃないかもしれない。
そう思った。
猫は、私の腕のなかで丸くなり、目を閉じていた。
【2025年12月12日 夜 男】
僕は夜の街を歩いていた。
目的があったわけじゃない。
ただ、仕事帰りの足が、なぜかいつもの道を外れて、商店街の裏手へと向かっていた。
冬の空気は乾いていて、足音がよく響いた。
手袋をしていたけれど、ポケットに突っ込んだ手は、なぜか妙に熱っぽかった。
小さな路地に入ったところで、ふと、視界の端に動くものを見た。
黒い塊が地面をすべるように動いていた。
猫だった。しかも、複数いた。
僕は足を止めた。
空き地の隅、街灯の下。
そこに、黒猫の群れがいた。
五匹。母猫と、四匹の子猫。全員、驚くほど真っ黒だった。
彼らは僕の気配を察すると、すっと暗がりの奥へと消えていった。
全員、ではなかった。
ひとりだけ、残っていた。
子猫。
そして、その子猫を膝に抱いている女性がいた。
彼女はしゃがみ込んで、何かをじっと見ていた。
その姿を見た瞬間、僕の時間が少しずれた。
あの夢だ、と直感した。
縁側、黒猫、詩を書く午後。
あの夢の中で、彼女は確かにそこにいた。
今と、まったく同じ姿で。
僕は、しばらく動けなかった。
彼女は顔を上げた。
目が合った。
その瞬間、言葉よりも先に、何かが僕の中で再生された。
記憶ではない。
でも、それは単なる夢でもなかった。
匂いのような、音のような、もっと根源的な何かだった。
彼女の腕のなかには、小さな黒猫がいた。
その猫が、僕の方を見た。
まるで、“あなたもまたここに戻ってきたのね”とでも言いたげに。
「……その子、ずっとそこに?」
気づけば、僕は声をかけていた。
彼女は小さく頷いた。
まるで、音を立てることを躊躇っているような仕草だった。
「一匹だけ、逃げなかったの。
というより……私のところに来た気がするの」
その言葉に、僕は何も返せなかった。
何を言っても、今ここで壊れてしまいそうだった。
だから、ただ頷いた。
彼女のコート、猫の毛、冬の夜の湿気。
すべてが、あの夢の続きのようだった。
でも違うのは、これは夢じゃないということだ。
彼女が誰かなんて、知らない。
名前も、年齢も、何が好きかも知らない。
でも、ここに来る途中、
何か大事なものに会うんじゃないか。
そう思ったことだけは、たしかだった。
そして僕は、思った。
たぶん、今年のクリスマスは、
いつもと違う夜になるかもしれない。
その予感は、風のように静かだったけれど、
不思議なくらい、確かだった。
黒猫マリー
マリーが生まれた夜、世界は少しだけ息を呑んだ。
黒い毛並みは夜そのもの、
その手触りは、まだ名を知らぬ幸福のようだった。
尻尾は長く、耳は鋭く、
まるで“生まれる”という出来事そのものが、
一つの美としてこの世に結晶したようだった。
マリーは自分の美しさを知っていた。
いや、知っていたというより、
“自分を中心に世界が回る”という感覚と共に生きていた。
野良猫たちは毎晩、魚をくわえてマリーに捧げた。
だがマリーは鼻先をひとつ動かし、
贈り物だけを受け取って冷たく背を向けた。
「他の猫なんて、みんな臭い。育ちが悪い。教養もない。」
マリーにとって、他の猫は鏡ではなかった。
世界のすべてが、彼女を映すために存在していた。
だから、愛など必要なかった。
季節がいくつも過ぎた。
黒い毛並みのあいだから白い毛がのぞき、
尻尾の毛は抜け落ち、
耳は歪な形になった。
マリーは初めて、自分の身体が“過ぎていく”という事実を知った。
時間とは、外から流れてくるものではなく、
体の中で静かに崩れていく震えだった。
誰もマリーを振り返らなくなった。
彼女が拒んだのは他者だったが、
いつの間にか、世界そのものが彼女を拒んでいた。
そんなマリーの三メートル後ろを、いつも歩く猫がいた。
名は鉄男。
目立たない、不格好な猫だった。
雨の日も風の日も、
鉄男はただそこにいた。
マリーは嫌悪と安心のあいだで生きていた。
鉄男の存在は、まるで影のようだった。
近すぎず、遠すぎず、
“孤独”という言葉をやさしく包む距離にいた。
魚を盗んでは持ってくる鉄男に、
マリーはそっけなく言った。
「あなたがいても、マリーはマリーよ。」
鉄男は笑った。
その笑いは音を持たず、ただ空気を温めた。
やがて、マリーは少しずつ鉄男に話しかけるようになった。
最初は五分、次に十分、
やがて一時間。
時間が伸びるたび、
心の中の空白が少しずつ形を変えていった。
ある日、鉄男が言った。
「マリーは俺のこと、好き?」
マリーは静かに答えた。
「好きなのは自分。でもあなたといると、少し安心するの。」
鉄男は笑いながら言った。
「それでいい。安心したいって思うことが、“好き”ってことなんだよ。」
マリーはその夜、月を見上げた。
孤独は、もう痛みではなく、
柔らかい余白になっていた。
「好き」とは、
誰かを所有することではなく、
自分の境界が少しだけ溶けることなのかもしれない。
やがて二匹は一緒に暮らすようになった。
毎日の散歩、
雨の日の軒下、
ぬるい日差しの午後。
それらが積み重なっていくうちに、
“時間”というものが、
ふたりの間にやさしく居座り始めた。
鉄男が言った。
「マリー、俺と結婚しよう。」
マリーは肩をすくめた。
「不細工だけど、便利だしね。」
笑い声が風に混ざった。
それが幸福というものに似ていた。
季節がまた巡った。
マリーのお腹に、小さな命が宿った。
その動きは、世界の奥に潜む“律動”のようだった。
体の中で何かが生まれようとしている。
それは、時間そのものが形を持ち始める瞬間だった。
マリーは涙を流した。
理由はわからなかった。
ただ、涙が頬を伝うと、
世界が少し透明になった。
鉄男は言った。
「それを幸せっていうんだよ。」
マリーは微笑んだ。
その笑みには、もうあの頃の傲慢な光はなかった。
自分が世界の中心ではないという発見が、
静かなやすらぎに変わっていた。
ある夜、鉄男は魚を取りに出かけた。
「すぐ戻るよ。」
マリーは小さく頷いた。
「気をつけて。」
月が白く街を照らしていた。
マリーは腹の奥に手を当てた。
そこに、小さな命が揺れていた。
??揺れ。
それは、存在がまだ続いているという証だった。
マリーは思った。
「帰ってきたら、“好きです”って言おう。」
けれど鉄男は戻らなかった。
次の日、遠くの町で捕獲があったと聞いた。
マリーは泣かなかった。
ただ、風の中で目を閉じた。
彼の不在の中にも、確かに“何かが生きている”と感じた。
それは、愛というより、
時間そのものだった。
数日後、マリーは四匹の子を産んだ。
彼らの小さな体が動くたび、
世界の奥で何かが震えた。
マリーは子猫たちを抱きながら言った。
「一緒にいたいって思う気持ちは、“好き”ってことなのよ。」
そして何度も何度も、
小さな耳に囁いた。
「好きです。好きです。」
夜風が部屋を撫で、
カーテンが静かに揺れた。
それは、存在がまだここにあるという音だった。
列車の揺れ
一
列車は静かに走っていた。
夜の田園を抜けるたび、窓に映る自分の顔が少しずつ歪む。
光の粒が流れ、暗闇が押し寄せては去っていく。
私は、東京から北へ向かう車両の一角に座っていた。
目的地は、もう何年も前に亡くなった母の生家。
けれど、本当のところ、私はどこへ向かっているのか自分でもわからなかった。
列車の揺れが、時間を撫でていく。
生きているという感覚は、この微細な振動の中にしかない気がする。
揺れが止まれば、私は存在を失うだろう。
??過去も未来も、ここでは並んで揺れている。
二
向かいの席に、中年の男が座っている。
古いスーツ、手帳、焦げたような匂い。
彼は窓の外を見つめながら、小さく呟いた。
「時刻表は、いつも未来を予定しているのに、
人間は、過去しか見ていないね。」
私は笑った。
「過去の中にしか、自分を見つけられないんです。」
男は私の方を見た。
目の奥に、長い旅の影があった。
「僕はね、昨日の自分を思い出せないんだ。」
「病気ですか?」
「いや、時間のせいだよ。」
男は軽く笑って、座席にもたれた。
車輪の音が深く響いた。
その響きは、まるで心臓の鼓動のようだった。
私は思った。
??時間とは、外にあるものではなく、
体の中で“回っている”ものなのかもしれない。
三
いつの間にか、車内は薄暗くなっていた。
灯りの下でノートを開く。
母が死ぬ前に言った言葉が、記憶の中でかすれている。
「時間はね、あなたの外じゃなくて、あなたの手の中にあるのよ。」
その意味を、ずっと理解できなかった。
今、列車の揺れの中で、その言葉が少しずつ体に沁みていく。
揺れは、進行方向とは関係なく私を動かしている。
私の意思など関係なく、体が少しずつ、何かの方向へ運ばれていく。
??人生もまた、そうなのではないか。
誰かが、私を知らぬうちに運転している。
私はただ、揺れに身を任せている。
四
次の停車駅の放送が流れた。
アナウンスの声はやけに穏やかで、
まるで時間が「ここで降りなさい」と囁いているように聞こえた。
窓の外の景色が、一瞬止まった。
その静止の中で、私は急に“今”というものを意識した。
過去も未来も、ここに重なっている。
??私が存在するのは、ほんの一瞬。
この揺れの、ある一点。
もし私が立ち上がれば、
時間はまた別の方向へ動き出すだろう。
だが、立ち上がる勇気がない。
立ち上がれば、すべてが“現在”からこぼれ落ちてしまう気がする。
私は目を閉じた。
列車が揺れる。
その揺れが、私の呼吸と重なっていく。
過去が私の左肩を撫で、未来が右頬を通り過ぎる。
そのあいだで、私は静かに座っている。
存在とは、たぶん、この均衡のことなのだ。
五
車内の明かりがひとつ消えた。
遠くで、誰かの寝息が聞こえる。
私はポケットの中の切符を指で触れた。
行き先の名前が、すでに滲んで読めない。
??もしかしたら、私は最初から、どこにも行くつもりがなかったのかもしれない。
列車がトンネルに入る。
闇が窓を覆い、
車輪の音だけが、存在の証のように響く。
暗闇の中で、自分の顔が見えなくなる。
私は私を失う。
だがその瞬間、かすかな安らぎが訪れる。
「私がいない」ということが、
こんなにも静かで、こんなにも広い。
??時間の中で私が消える。
けれど、時間だけが私を覚えている。
トンネルを抜けた。
朝が始まっていた。
光が車内を満たす。
揺れが、また戻ってくる。
列車が生きている。
そして、私もまだ、生きている。
私は窓を開けて、風を吸い込んだ。
風は、今と昔と未来の匂いを同時に運んでいた。
列車の揺れの中で、私は初めて思った。
??生きるとは、
止まらない時間の中で、
ほんのわずかに“揺れ”を感じることなのだ。
そして、その揺れがある限り、
私は確かに、ここにいる。
時の底で
一章 告知
病室の時計の針が、ひどく大きく聞こえた。
秒針がひとつ進むたび、何かが削り取られていくような音がした。
医師の口は動いていた。
けれど、言葉は遠くで反響しているようにしか感じられなかった。
「……余命は、だいたい一ヶ月です。」
世界の輪郭が、ゆっくりとぼやけた。
机の上に置かれたカルテの白が、異様に眩しい。
??あと一ヶ月。
その瞬間、時間というものが逆流した気がした。
未来は失われ、過去だけが静かに膨張していく。
記憶が、体の内側から滲み出してくる。
私は名前を持つただの生物ではなく、
「終わりを知った存在」として、
今まさに“生きる”ことを命じられた。
二章 帰路
退院の手続きの紙を渡されるとき、
看護師が小さく言った。
「外の風が気持ちいいですよ。」
その言葉が、妙に心に残った。
病院を出ると、風が顔を撫でた。
それは“外”の風だった。
たったそれだけで、世界がまだ私を受け入れているような気がした。
帰りのバスの窓から見える街が、奇妙に美しかった。
信号が変わる。
子どもが手を振る。
老婆が買い物袋を抱える。
どれも、昨日まで見慣れていたはずの光景。
だが今は、それがすべて「一度きりの出来事」に見えた。
二度と訪れない。
一秒前の光も、もうこの世界には存在しない。
??時間とは、失われていく瞬間の残像だ。
バスの揺れが、体の奥まで届いた。
その微細な振動が、私に生を感じさせた。
「生きるとは、揺れることだ」
そう思った。
止まれば、死だ。
三章 日記
家に戻ると、机の上に古いノートがあった。
十年前に書いた、未完成の小説の草稿。
タイトルは「風のあとで」。
一行目には、こう書かれていた。
「時間は、私の外にはない。」
私は、その言葉を何度も読み返した。
まるで十年前の自分が、
今の私に手紙を残していたかのようだった。
ペンを取り、ページの隅に書き足した。
「時間は、私の中で震えている。」
書いているうちに、涙が滲んだ。
それは悲しみではなく、
“自分の存在がまだ書ける”という事実への驚きだった。
書くこと。
それは、死に抗う最も静かな方法だった。
四章 午後の海
余命の半分が過ぎたころ、
海を見たくなった。
冬の海は静かだった。
波が崩れては戻り、崩れては戻る。
それを見ていると、呼吸と時間の境界が曖昧になった。
??生も死も、この往復の中にある。
砂浜に座り、ポケットから煙草を出した。
煙が風に流され、白い線となって消えていく。
ふと、自分の影を見た。
午後の光が、影を長く引き延ばしている。
それは、まるで「私の時間」そのもののようだった。
陽が沈むにつれ、影がゆっくりと薄れていく。
それを見ながら、不思議な静けさに包まれた。
消えることは、必ずしも“無”ではない。
むしろ、消えることによって世界が完成する。
五章 夜の中で
夜、ベッドの上で目を閉じた。
心臓の鼓動が、かすかに耳に響く。
そのリズムが、世界の時計と重なっている気がした。
??私は、まだ世界と呼吸を合わせている。
意識がゆらめく。
過去の記憶が、幻灯のように流れていく。
子どもの頃の雨の音、母の声、初恋の夜、
そして、何もない空。
それらすべてが、一つの波となって胸を打つ。
時間は直線ではなく、
同時に存在している円環だ。
その中心に、私は今、いる。
??存在とは、消えゆくものの中にとどまること。
夜が深くなる。
風の音が遠くで鳴っている。
私は静かに笑った。
「生きている」
それが、最後の言葉だった。
終章 揺れのあと
翌朝、部屋の窓が少し開いていた。
カーテンが風に揺れていた。
机の上のノートのページが、一枚めくれて止まっていた。
そこには、こう書かれていた。
「時間とは、揺れそのものである。
揺れがあるかぎり、存在は続く。
だから、私はまだここにいる。」
外の世界は、何事もなかったように朝を迎えていた。
時計の針が進む音が、かすかに聞こえた。
だがその音は、
もう誰の耳にも届くことはなかった。
ただ風だけが、
今も揺れていた。
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